契約に関する業務は、作成する部署、審査する部署、締結を承認する立場、締結後に保管する担当がそれぞれ分かれていることが多く、全体を通して見渡せている人がいないという状況が起こりがちです。この分断を前提から見直す考え方がCLM(契約ライフサイクルマネジメント)です。本記事では、CLMが対象とする工程と、自社に取り入れる際の判断の考え方を解説します。
CLM(契約ライフサイクルマネジメント)とは、契約が必要になった時点から、書類の作成・審査、取引先との交渉、社内の稟議と締結、そして締結後の保管や更新に至るまでを、ひとつながりのライフサイクルとして捉えて管理する考え方です。契約を「締結して完了する単発の手続き」ではなく、発生してから終了するまで続く一連のプロセスとして扱う点に特徴があります。個々の工程を個別に改善するのではなく、工程間の受け渡しも含めた全体を設計の対象にするという発想です。
契約業務が工程ごとに分かれていること自体は、役割分担として自然なものです。問題になるのは、工程と工程のあいだで情報が引き継がれず、そのつど確認や再入力が発生する場合です。事業部門が作成した契約書の情報を法務が改めて確認し、締結後にはまた別の担当が台帳へ転記するといった流れでは、同じ情報を何度も扱う重複作業が積み上がっていきます。誰の手元で止まっているのかが見えないことによる確認待ちも生じやすく、遅延の原因が特定できないまま催促が繰り返される状態になりがちです。
CLMは考え方や管理の枠組みを指す言葉であり、それ自体が特定の製品を意味するわけではありません。この枠組みを日々の業務として実現するための手段にあたるのが、契約管理システムをはじめとするツール群です。したがってツールを導入すればCLMが実現するのではなく、どの工程をどうつなぐかを先に整理しておくことが前提になります。
ライフサイクルの起点となるのが、契約の必要性が生じ、事業部門から法務や管理部門へ依頼が寄せられる段階です。ここでは、どのような取引で、どの相手と、いつまでに契約が必要なのかという前提情報が過不足なく共有されているかが後工程の速度を左右します。依頼がメールや口頭で個別に届く状態では、依頼そのものの取りこぼしや、内容確認のやり取りの往復が発生しやすくなります。受付の入り口を一本化し、必要事項をそろえて受け取る設計が求められる工程です。
次に、契約書の案を作成し、内容に問題がないかを確認する工程が続きます。自社の雛形を用いる場合と、相手方から提示された書式を確認する場合とで、必要な作業の質は大きく変わります。過去に締結した類似の契約や、社内で合意された条項の考え方を参照できるかどうかが、審査の速度と判断のばらつきに影響します。参照先が個人の手元にしかない状態では、担当者によって判断が揺れ、確認に要する時間も読めなくなります。
審査を経た内容について、取引先と条件をすり合わせる工程です。修正のやり取りが複数回にわたることも多く、どれが最終版なのか、どの修正が合意済みなのかが分からなくなりやすい段階といえます。あわせて、事業部門と法務、場合によっては経理や情報システム部門との社内調整も並行します。版の管理と、やり取りの経緯を残しておくことが、後から締結内容の根拠を確認する際にも役立ちます。
内容が固まった後、社内の決裁を経て締結に至る工程です。決裁権限の区分に沿って承認を回し、押印または電子署名によって契約を成立させます。ここで滞留が起きる場合、原因は承認の順序や権限の設計にあることが少なくありません。誰の承認まで進んでいるかが関係者から見える状態になっていれば、遅延の所在が特定でき、対処の判断も早くなります。紙と電子の締結手段が混在している場合は、どちらの経路でも同じように進捗を追えるかが論点になります。
締結して終わりではなく、契約が有効である限り管理は続きます。締結済みの契約書を検索できる形で保管し、有効期限や更新日、解約の通知期限を把握しておく必要があります。自動更新条項を含む契約では、更新を止めたい場合の通知期限を過ぎてしまうと意図しない継続が発生します。ライフサイクルの中で長い期間を占めるのがこの工程であり、担当者の交代をまたいでも情報が引き継がれる仕組みが欠かせません。
5つの工程すべてに同じ重さで課題があるとは限りません。まずは、自社で特に時間や手間がかかっているのがどこかを見極めることが出発点になります。締結までの日数が長い、審査の順番待ちが慢性化している、締結後の契約書が探せないなど、具体的にどの場面で業務が止まっているかを工程に対応づけて整理すると、着手すべき範囲が絞り込めます。関係する部署へのヒアリングを行うと、部署ごとに見えている課題が異なることが分かる場合もあります。
特定の工程に課題が集中しているのであれば、その範囲から着手する部分的な進め方が現実的です。反対に、工程間の受け渡しそのものが問題になっている場合は、部分的な改善だけでは効果が出にくいことがあります。どこまでを一度に対象とするかによって、必要な検討期間や関係部署の巻き込み方が変わるため、着手前に範囲を決めておくことが重要です。関係者が多いほど合意形成に時間を要する点も見込んでおくとよいでしょう。
すでに電子契約サービスや社内のワークフローシステムが稼働している場合、CLMの考え方を取り入れる際は、これらを置き換えるのか、つなげて活かすのかを整理しておく必要があります。締結した契約が管理側へ自動的に引き継がれるかどうかで、日々の運用の手間は大きく変わります。既存の仕組みとの接続可否は、検討の早い段階で具体的に確認しておきたい項目です。
CLM(契約ライフサイクルマネジメント)は、契約の発生から作成・審査、交渉、稟議と締結、締結後の管理・更新までを一連の流れとして捉え、全体を設計の対象とする考え方です。工程ごとに担当やツールが分断されていると、重複作業や確認待ちが生じやすくなります。契約管理システムはこの考え方を実務に落とし込むための手段にあたるため、導入を検討する際は、まず自社のどの工程が滞っているのかを整理し、どこまでを対象とするかを決めておくことが大切です。
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